その毛鉤は、管理釣り場では爆釣、入れ食い状態であった。
これなら行けるだろうと確信を持ち、まず地元の早戸川や神ノ川、道志川で試して見たところ、岩魚や山女魚が食い付いた。
翌年は銀山湖に流れ込む中荒沢川で試したところ、ここでも爆釣。
更に、飛騨のいくつかの川で試したが。ここでも良い釣果が得られた。
とうとうオールラウンドの毛鉤が出来上がった。(この伝承毛鉤は一子相伝とする)
僕がテンカラ釣りを始めた頃、渓流でやっていると
「それは何釣りって言うの」
とよく聞かれたものだが、一〇年くらい前から大手釣具メーカーでテンカラ竿や各種ラインを製造販売するようになってからは、管理釣り場のメジャー になりつつあり、渓流でも時々見かけるようになった。
テンカラ釣りは日本人の気質、日本人の矜恃そして日本の川に合った釣りであることは間違いないし、この釣法を思い付いた先人に脱帽すると同時に感謝しなくてはならない。
だから、釣法だけではなく、心も伝承していかなくては、この釣りの伝承者の資格はない。
テンカラ釣りが日本人の気質、日本人の矜恃そして日本の川に合った釣りとはどう言うことか話して見よう。
一 日本人の気質
どう言う訳か渓流釣りをする日本人は一様に「短気」である。
一所で粘ることなく二~三投で次なる場所へ遡上する。
そんな日本人には、餌付け不要であり短い竿を自由に振り込み自己のポイントを見極めて毛鉤を落とすテンカラは最適であろう。
二 日本人の矜恃そして日本の川
山の民の住み暮らす日本の河川の多くは川幅が狭い。
餌釣りだとチョウチン釣りが主体であり、FFでは余程の達人でなければフライを振り込むことさえ叶わない。
この日本の川に合ったのがテンカラ釣りである
山の民が、何時でも何処でも手軽に岩魚を釣り上げることができる釣法として生み出されたものであろう。
川虫が何時でも調達するとは言えない自然の中だからこそ、世界に一つしかないこのような釣法が伝承されたのではないかな。
山の民が川原で一服していた時、カワセミが
川面を飛び交い近くの木に止まり、胸毛を一本抜き取り、再び川面に向かい上空から
その胸毛を川面に落とすと、その胸毛に
岩魚が反応した瞬間を見計らってカワセミ
がその岩魚を捕らえた場面を見て考案された。
日本の河川がいくら狭いと言っても、広い川だって沢山ある。
FFなら隅々までフライを振り込むことは可能であるが、長さの決まっているテンカラでは限られた所までしか振り込めない、しかしテンカラ師はそれで十分、何故なら川の宝である岩魚を根刮ぎ釣りきってはいけないことを自然を共有する者として辨えている。
この考え方が、日本人の矜恃である。
テンカラ釣りにはルールがある
まず、山の神、川の神に感謝
返しのない毛鉤
持ち帰りは一匹のみ(妻や仲間のために時には二匹)
持ち帰りの岩魚を釣り上げたら納竿
これさえ守れたら渓流でテンカラ釣りをする資格が出来るし、楽しい渓流釣りになることは間違いない。
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