数年前に、中部電力の浜岡原子力発電所を訪問する機会がありました。バスで構内を案内していただいたのですが、広報担当の方が強調されていたのが幾重にも安全対策を施しているので、たとえ巨大地震が起きても大丈夫ですということでした。目の前で何の音もたてずにそびえている巨大な建屋を見上げると、確かにこれなら絶対に安全なのかもしれないなと思ったのでした。
浜岡原子力発電所 |
中央制御室のシュミレーター |
現在、東京電力管内の発電所のうち福島第一と第二の原子力発電所、広野火力発電所2、4号機、常陸那珂火力発電所1号機、鹿島火力発電所2、3、5、6号機が地震により停止中となっています。東京電力の現在の発電量はだいたい3800万kWだということで、これが夏までにある程度回復できたとしても、電力の需要にはとても追いつきそうもありません。したがって、夏を迎えるまでに震災前の供給力に戻ることはほぼ無理になったということです。現在は落ち着いている電力需要も、これから気温が上昇してくると大きく伸びてくることが予想されますから、計画停電が引続き実施されることになるでしょうし、何かの事情で現在稼動している柏崎刈羽原子力発電所が一時的にでも停止するようなことがあれば、電力供給があっという間に逼迫してくるという事態もないとはいえません。
これまで通りの電力を維持するためには、二つの選択肢しかありません。ひとつは、原子力発電所の安全基準をこれまで以上に強化した上で、全ての原子力発電所の再稼動と新たな原子力発電所を新設することを目指すというもの。もうひとつは、化石燃料の調達コストや温室効果ガスの排出については考えることなく、火力発電所の設備を増強し、さらに新設していくというものです。これらの方法で、電力供給については時間がかかりますがいずれは回復していきます。しかし、それでいいのでしょうか?
3月11日まで、私たちは電力が無尽蔵にあると思って暮らしてきました。1963年と2009年の電力需要を比べてみるとその差は約8.5倍で、その間多少の動きはありますが基本的にはずっと上昇し続けています。改めて電力会社からの安定した電力供給があって、私たちの生活が成り立っていたことに気付かされたのですが、今回の未曾有の大災害の結果、否応なく人々の仕事や生活の形態を変えざるを得なくなってしまいました。しかし、これを契機としてエネルギーを消費することなく、経済活動を活発化させ、人々が豊かに生活できるような社会を作り上げていくことができるかどうかが、これからの大きな目標となりうるのではないでしょうか。例えばIT技術を活用してスマートグリッドといった新たな電力網をより洗練させていくといった技術的な側面と、短時間で効率的な成果を出すことができる労働環境を整備したり通勤時間を短縮するためのテレワークの活用といった社会的な側面を徹底的に追求していくことで、大きく構造が転換していくのではないかと思うのです。
実は、ここにもうひとつの新しい選択肢があるのです。それが社会全体の構造を転換して、これまでにない省エネルギー社会を作っていくことなのです。
浜岡原子力発電所を見学した際に、広報の方が最後に言っていたことが、印象に残っています。「私たちは、エネルギーの転換が進んで原子力発電所が不要になる日がくるまでは、安全に発電所を稼動させていきます。」という言葉でした。その日を迎えることができるかどうかは、私たち一人ひとりにかかっています。
(imamura)
(imamura)