2013年2月14日木曜日

ポーツマスの旗(のぞみ総研メルマガ2012.9.9.12コラムより)

 ここ数日、吉村昭さんの小説「ポーツマスの旗」を読んでいました。旅順攻略や日
本海海戦での奇跡的な勝利に熱狂する世論とこれ以上は戦争を続けることは出来ない
という極めて厳しい現実の中での交渉で、日本の全権、小村寿太郎とロシアの全権、
ウィッテとの息の詰まるような攻防やアメリカ大統領ルーズベルトの思惑などが絡み
合って、淡々としながらもその場に居合わせているような緊張感を覚えるのは、膨大
な資料を基に丹念な小説を書く大作家のなせる技なのでしょう。

 この小説は、ずいぶん前にも読んだことがあったのですが、その頃よりも日本を取
り巻く状況が、小説の時代に似てきたような気がします。小説の中でも、世論と現実
との大きな乖離が描かれるのですが、この乖離は、「国民に現実が知らされない」こ
とによって一層大きくなっていきます。今の脱原発や領土問題なども、やはり現実が
完全には国民に知らされていない中で、世論ばかりが大きく盛り上がっているように
も見えます。

 現代のようにメディアが発達し、マスメディアだけではなくツイッターやフェイス
ブックのような個人発信型のメディアが大きく影響力を持ってきた時代では、戦略的
に情報を開示していくことがとても重要だと思えるのです。

 ポーツマス条約を締結し、日本という国を守るために交渉をまとめた小村寿太郎を
待っていたのは、暴動を起こすまでになっていた国民の怒りでした。

 国際情勢は日露戦争の頃に比べて、格段に複雑になっています。限られた情報の中
で、自らの道をどのように切り拓いていくのか、私たちの選択が迫られているように
思えます。


(今村 正典)