2012年11月21日水曜日

中国の労働政策と日本企業

 20日付の日経新聞の速報で、中国商務省が発表した10月単月の対中投資が
前年同月比で32.4パーセント下がったことが報道されていました。大きな原因
は、もちろん9月半ばの尖閣諸島に関する反日デモで日系企業が大きな被害を受
けたことにあります。しかし、これ自体は日本企業が中国から撤退をする大きな
引き金をひいただけで、既に少しずつ日本企業が中国からの撤退を模索する動き
が広がりつつありました。

 元々、中国に日本企業が進出していったのは「世界の工場」として安価な労働
力が求められていたからです。中国の経済成長に伴って労働者の賃金が上昇し、
中国での生産が必ずしも低価格ではなくなってきて、更に賃金アップを求める労
働者の労働争議が数多く発生するようにもなってきました。こういった流れを受
けて労働者の労働契約に関して、2007年に「中華人民共和国労働契約法」が
制定されました。

 中国の労働契約法の特徴は、「労働争議調停仲裁法」などと共に、労働者の権
利保護に重点が置かれている点にあります。中国政府は2011年から2015
年の第十二次五ヵ年計画で、労働者の権利保護を重視する政策を実施する姿勢を
示していますので、今後も労働者の権利保護に関する法規制が強化されていくと
思われます。
 こうした中国政府の労働政策は、日本から中国に進出した企業にとって、これ
までの低賃金で豊富な労働力を活用し生産拠点とするという経営戦略の大きな見
直しを迫るものとなり、いくつかの企業では中国から撤退し、賃金の安い他の
ASEAN諸国などに進出するという動きもあります。

 しかし、労働者を解雇するには退職金と似た性質を持つ「経済的補償」が法定
されており、撤退するにしても周到な準備と、専門的な知識が求められるのです。


(今村 正典)