2011年5月24日火曜日

ミスの責任を取らせるな

6年前の4月25日に発生した福知山線脱線事故当時の報道の中で、
被害者の遺族が語った、
「こんなことで命を落とすなんて、運命じゃない。」
「社会全体がゆるんでるからこうなったんだ。」
この2つの言葉が、未だに私の耳から離れません。
そして、それ以降も、企業コンプライアンスに原因のある事件や
大事故は発生し続けています。
企業コンプライアンスに多少でも関わっている中で、いかに自分の
力が非力なのかを実感する日々でもあります。
でも、どうしてこういった事件や事故が減少しないのでしょうか?
ハインリッヒの法則というのはご存じだと思います。
1件の重大な事故に至るまでには29件の軽微な事故があり、さらに
事故にならない程度のミスが300件発生しているというものです。
なので、ヒヤッとしたり、ハッとしたりした程度の小さいミスの
うちに、しっかり同種の事故を防止する対策を講じておくことが
重要ですということで、製造業など高いレベルで安全性を確保しな
ければならない職場では、よく「ヒヤリ・ハット」などという標語
を掲げて対策に努めています。
実は、ここに落とし穴があります。日本の多くの企業では、
「ヒヤリとしたことや、ハッとしたこと」を上司に報告してしまう
と、その後で反省させられたり、場合によっては処分の対象とされ
たりします。
これでは怖くて報告しにくいので、小さなミスの多くが経営者に
報告されないままとなってしまう傾向があります。
報告されることなく発生しては消えていく小さなミスが、知らない
うちに積み重なり、大きな事故の要因を作ってしまうのです。
福知山線事故を起こした運転士も、いろいろな証言から
「手前の駅でオーバーランをしてしまったこと」の精神的な動揺が
大きかったということがわかってきました。
その背後には懲罰的な再教育システムがありました。
このようなシステムはJR西日本だけに見られた特異な体質のよう
に思われていますが、実はそうではありません。
ここまで極端ではないにしろ、ミスを「責める」というのは、恐らく
どこの会社にもあるごく一般的な風土なのではないかと思います。
事故を起こさないための秘訣、それは一つ一つのミスを確実に表に
出して、地道に対策を考えていくことしかありません。
そして、一つ一つのミスを確実に見つけ出し、再発を防止するためには、
「ミスを起こした従業員に対して個人的な責任を追及しない。」
ことが重要です。
表面化したミスに対して「おまえがたるんでいるからだ。」とか、
「気合いが入っていないからだ。」と上司が活をいれるのはとても
簡単ですが、それは危険をさらに増幅させているということなのです。