社会保険労務士 富田保宏
東日本大震災や円高など経営に与える影響が多いご時世です。会社を維持しているためには、避けて通ることができない事態として雇用調整が必要な場面があると存じます。この場合には、後々問題とならないための順序というものがあります。
順序には、一般に残業規制などの経費削減の実施、新規採用を控える、昇給停止や賞与の削減、配置転換や出向、休業の実施、希望退職の募集等があり、最終的な手段としての整理解雇があります。整理解雇の4要件と呼ばれる判例が、この順序を考慮すべき背景にあります。
【整理解雇の4要件】
①人員削減の必要性
②解雇回避努力
③被解雇者選定の合理性
④労働組合等との協議・従業員への説明
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まず、
【残業規制を検討する。】
経費削減として、労働時間管理を徹底して、時間外労働の削減や抑制を図ることを行います。ムダな残業をしていないかを各部署、職場にて見直しを図りましょう。
また、残業の事前申請制の実施。または残業を許可制にすることも必要です。本当に必要な残業なのかを職場内で従業員を入れて判断し、見極めましょう。従業員全員に意識化を図ることも大切なことです。
次に、
【新規採用を控えることを検討する。】
採用取消にあたっての注意点があります。内定は、始期付解約権留保付労働契約といって、業績悪化を理由とする取消は従業員と同じ扱いとされます。規採用を不可能ないし困難であり、かつ内定当時予測できないものであることが要請されています。
次に、
【昇給停止及び賞与の削減を検討する。】
経営状態によりこれら対応が可能な規定となっているか、就業規則や賃金規程を確認しましょう。昇給停止をする場合は、賃金カーブが中だるみをしないような配慮をしましょう。経営者自らが率先して、役員報酬の削減を行うことも大切なことです。
次に、
【社内での配置転換や関連会社への出向を検討する。】
就業規則(異動)の規定を確認しましょう。注意点として、転籍は個別同意が必要となることがあります。
次に、
【休業の実施を検討する。】
まず、就業規則(休業手当)の規定を確認しましょう。中小企業緊急雇用安定助成金(雇用調整助成金)を活用しましょう。これを用いたか否かを後々問題となった場合(裁判)には問われることになります。
次に、
【非正規従業員の雇止めや雇用契約解消を検討する。】
原則として契約期間満了での退職(雇止め)を基本に考える。
期間途中での解雇は、正社員より簡単ではなく、やむを得ない事由がなければ途中解雇はできません(労働契約法17条)。
次に、
【希望退職の募集を検討する。】
正社員の雇用削減手順は、①希望退職、②退職勧奨、③整理解雇の順です。
希望退職と退職勧奨は、解雇ではなく合意解約です。
検討課題として、対象者の範囲、募集人員、応募期間、年次有給休暇の買上げの有無等がありましょう。
次に、
【賃金カットの実施を検討する。】
労働契約のやり直しであり、個別同意が必要となります(労働組合があれば協約に従うことで個別同意は不要)。
就業規則による不利益変更の対応が必要となります。この場合の留意点として、①労働者の受ける不利益変更の程度、②労働条件の変更の必要性、③変更後の就業規則の内容の相当性、④労働組合等との交渉の状況その他就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであることが求められます。
次に、
【退職勧奨を検討する。】
退職勧奨では、希望退職の募集時と同様な検討課題があります。
最後に、
【整理解雇を検討する】
となります。