2007年10月31日水曜日

ディズニーランドのパレードの撮影

「著作権の寿命を長くする工夫」のテーマで続きを書く予定でしたが、興味深いニュースを見たので早速取り上げます。
ニュースによれば、ディズニーランドのパレードをビデオカメラで無断で撮影し、その映像をDVDとして複製してネットオークションで販売していたことが著作権法違反にあたるとして千葉県警が4人を逮捕したということです。
パレードやショーをひとつの著作物ととらえて立件するのは珍しい、と県警がコメントしているそうです。

事件がディズニーランドに関することなので著作権問題として脚光を浴びやすいという側面があるうえに、記録媒体に固定されていないパレードというものが著作物として保護されるということをどのように考えるべきか、という意味でも強い関心を持ったので早速書いてみました。

たしかにパレードやショーというものは「思想感情を創作的に表現」していると考えれば著作物にあたりうると思います。著作権法第10条では、「舞踊又は無言劇の著作物」が著作物の種類としてあげられています。
つまり踊りや振り付けなど身体的な表現も著作物にあたりうるということです。
特にディズニーランドのパレードは、音楽はもちろん、イルミネーションや振り付け、衣装などに独特の個性があると見ることができます。これらを企画実施した結果、パレード全体をひとつの著作物とみなすということでしょう。

一般的に著作権侵害というものは、すでに紙やデジタルデータなどに表現が固定された後のものを無断でコピーなどすることが侵害になる場合がほとんどですが、今回のように表現が固定される以前の段階で撮影されたものまで侵害の対象ととらえるケースは確かに珍しいと思います。なお、パレートを撮影し逮捕されたと思われる人は、その記録された映像(これは映画の著作物か)について著作者であり著作権を保有していると思われます。販売目的でパレードを撮影することは撮影技術的に容易なことではないと思います。場所の選定があるし、角度や明るさの調整なども苦労するでしょうから、これが創作行為かどうかと考えると、多分創作にあたるのでしょう。つまりこれは二次的著作物の一種とも言えるかも知れません。

今回のように、固定されていない人間の動きを利用した表現というものについて著作物とみなして保護するということは、考えれば考えるほど迷路に迷い込んでしまい整理するのに時間がかかります。もしかすると、今の私はまだよく理解していないのかもしれません。たとえば、だんじり祭りとか、リオのカーニバルとか、ああいったものがテレビで報道される際には原則として許諾が必要なのでしょうか。
調教された犬や猫はどうか。水族館の魚は。化粧された人間の顔は。パレードとは、ショーとは、一体どうして著作物であって、著作物ではないものとの区別はどこで見るべきでしょうか。
人の無意識の動作ならば著作物にはならないけれど、ある程度の企画性や芸術性があれば著作物になるものでしょうか。
人の身体的活動表現を著作物として保護する場合の保護範囲を真剣に考えると、とてもやっかいな問題に直面しそうです。

テレビのニュースでは「人が一生懸命つくったものを勝手にコピーするなんて・・・」と当然ながらの解説でしたが、今回の事件における著作権法の解釈をマスコミの活動にあてはめて考えたときに、意外と難しいことになるのではないかという予感がしています。
<たまたまディズニーランドが被害者だから逮捕されるのが当然だ>という思い込みが報道側にまったく無いと言えるのかどうか。マスコミの姿勢に「とにかくディズニーランドをひいきにする」という姿勢がないものでしょうか。

たしかに販売目的でパレードを撮影されたらディズニーランドとして迷惑だということはうなづけますし、こういった行為がタダノリ行為の中でも特に悪質な部類にあたることに疑問はありません。
これを著作権法違反だとする考え方も間違っているとは今のところ思いません。
しかし、コピーして販売することだけが侵害行為の類型ではありませんから、テレビ放送することも、場合によっては写真撮影して出版することも範疇に入ってくる可能性があるのではないでしょうか。
ならば町内会の神輿を担いでいる様子を放送したり、甲子園で踊っているチアガールや応援団を放送したりするのはきちんと許諾を得る必要がないのでしょうか。その許諾は誰からどのように得て、収益はどのように分配されればよかったでしょうか。このあたりのことがどうも難しく、一般からの疑問に対して理論的に説明するのに苦労しそうです。

今回の事件では、販売目的で撮影した点において責任を負うのも当然と思いますが、自分たちで楽しむためにパレードを撮影すること自体はなんら問題がないことです。ですから一部のテレビ報道で使われていた「盗撮」という言葉は適切だったのかどうか疑問です。
ディズニーランドのパレードを撮影した映像を持っている人はたくさんいますが、それを私的使用の範囲を超えて利用すると著作権侵害になってしまいます。YOUTUBEでアップすることも侵害にあたると考えられます。
ならばマスコミの活動にも同様にこの解釈があてはめられて当然だということになるでしょう。
被写体となっている一般人の身体的作業が著作物として保護されないものであると確信を持って撮影し利用してくださいね。そういうことになります。
「一般人が対象の場合は勝手に放送し出版してもへっちゃらだけど、相手がディズニーだから許諾をとらないとね」
実態はそういったことかもしれないと勘繰るのは私だけでしょうか。
著作権法を素直にあてはめたらおかしなことになってしまう場面はいくらでもあります。
たとえば会社でインターネットから取り出した情報をプリントアウトした場合には私的使用の範囲に収まらない場合が多いはずです。でも間違いなく今日も日本中の職場で著作物が無断複製されているでしょう。
このブログの文章にしても印刷目的が私的使用だとは限らないでしょう。
つまり著作権法は特定の誰かのために特定の部分だけが利用されることがあるのであって、今回の事件についても、私は単純な違反事件としては割り切れない気分です。

私が知っている世の中の現実においては、「法律違反だから悪い」のではなく「誰かにとって迷惑な存在になることが悪い」のだと思います。これは皮肉と解釈していただいて結構です。法律違反をまったくしていない人はいないし、法律違反をしていなくても責任を取るべき人がいるものです。だから「法律を気にする前に世間を気にしてください」と私はよくお客さんや生徒さんに言います。
ともあれ、この件は今後の成り行きに注目してゆきたいです。