2007年11月16日金曜日

著作権譲渡登録抹消請求事件(東京地裁)

平成19年10月26日言渡しの東京地裁判決です。
米国人ケネス・ハワードの著作権がケネス・ハワードの遺族から第三者に対し二重譲渡された件につき、被告が完了していた著作権譲渡登録を原告の名義として回復するか、または抹消することを
求めた裁判でした。

著作権が契約によってAからBに譲渡され、さらにAからCにも譲渡されていたというケースを「二重譲渡」と言ったりします。 この場合、一般的に一番ずるいと言えるのは著作権を譲渡したAなので、著作権を譲り受けたつもりのBとCにとってはとても迷惑な話ですが、不動産売買ではこういうことは珍しいことではなかったようで不動産登記制度が重要な役割を果たしています。

家やマンションを買ったあと、何十万円もの登録免許税を払って登記をしている人の中で、不動産登記をする必要性を理解している人は少ないと思います。もしかすると登記することが義務なのだと思っている人が多いかもしれません。
所有権移転の登記に限っていえば別に義務ではありませんから、登記しないでほっておいても法律違反ではありませんが、万一、二重譲渡が発生して(つまり裏切られて)しまったときに備えて登記をしているわけです。

著作権も所有権と同じ財産権なので、著作権法で著作権譲渡の登録制度があり、対抗要件が付与されます。
あまり知られていないため、登録件数は登記に比べたらゼロパーセントに限りなく近い割り合いでしかありませんが、それにしても不動産並みの価値がある著作権でさえ譲渡登録をしておかないことは、とても危険なことだと思っていましたが、その重要性自体が社会で認識されていませんでした。

今回の判決で原告は被告が背信的悪意者、つまり原告が先に正当に著作権を譲り受けていたことを知りながら著作権を譲り受け譲渡の登録をしたのだと主張しましたが、すでに被告が対抗要件を備えている以上は背信的悪意の立証は原告の負担であり、よほどの確証を得ない限り裁判官は背信的悪意を認めることはできません。
実際のところ、この判決では原告の主張は退けられました。
著作権譲渡登録の重要性を見せ付ける裁判例だったと思います。

今後、著作権の登録制度が徐々に定着してくると思います。
それにつれて、著作権登録制度自体の問題点も浮き彫りにされてくることになるでしょう。
不動産登記のような緻密な登記規則があるわけではなく、登録審査は文化庁の本庁のごくわずかな人員で処理されていて、法務局に相当する情報管理もなされていません。
著作権登録状況データベースが文化庁のサイトにありますが、これも著作物の題号などごく限られた情報をみれるだけで、いわゆる登記情報に相当するものではなく、完全な登録情報の入手には大変な手間がかかります。
また法制度上の問題点も指摘できるでしょう。
不動産の表示登記のように権利の土台を確定する手段がありませんし、譲渡契約書を添付するにしても印鑑証明ななしに登録できてしまいますから、虚偽の登録は難しくありません。
もちろん、虚偽の登録は公正証書原本不実記載罪などの罪に問われます。


有体物である不動産の売買でさえトラブルになるのですから、登録なしで著作権を譲渡するのは、やはり大きなリスクを背負うことになるのだと認識しておく必要があります。