2010年3月28日日曜日

著作権表示の盲点?

意外と知られていない著作権表示の盲点

◎一般的な著作権表示について
ホームページ上で著作権に関して検索されるキーワードの中で意外と多いのが「著作権表示の方法」です。私がこれまで行ってきた解
説も含め世間一般でおおむねどのような説明がなされているかと言えば、

①日本の法令では著作権表示の表示方法も、表記をするかしないかも自由である
②Cマークなどの一般的な表記は万国著作権条約第3条の規定に由来しているが法的効果はほとんどない
③著作権表示には著作権の存在を訴える効果(心理的)など間接的な意味しかない。  

といったところだと思います。法律上の義務があるわけでもなく、表示をしたから権利が発生するというわけでもないので、これについてあまり神経質にならなくてもいいですよ、というニュアンスの説明がなされることが多かったと思います。 
実際のところ、著作権表示の方法にはいろいろあって、実態が意味不明の表示が多々見受けられますし、表記自体にかっこよさが求められ、ある種の流行のようになってしまっているような気もします。
しかし、この夏のチャプリン映画の著作権保護期間をめぐる判決にもあったように、著作権表示は世間で考えられている以上に重要なものであると考えられます。 
まず、「著作権表示」という言葉がよく使用されていますが、厳密には「著作者」の表示として捉えるべき部分もあり、著作権者と著作者とでは法律上の立場が異なるので、本来どのような表現がふさわしいものか迷ってしまいました。ここでは著作者と著作権者の区別をしない表記の意味として暫定的に「著作物表示」という言葉を使わせていただきます。


◎著作者表記には法律的な効果がある

著作権法では、著作物表示に関して沈黙しているわけではありません。

著作権法(著作者の推定) 第十四条  
著作物の原作品に、又は著作物の公衆への提供若しくは提示の際に、その氏名若しくは名称(以下「実名」という。)又はその雅号、筆名、略称その他実名に代えて用いられるもの(以下「変名」という。)として周知のものが著作者名として通常の方法により表示されている者は、その著作物の著作者と推定する。  

この条文によると、著作物が世間の目に触れる際に表示された者が著作者と推定される、ということです。表示をしないことも自由だけれど、もし名称の表示があれば、その人が著作者であると推定されます。推定とは、それをくつがえす証明がなされない限り事実とみなされる、ということです。 
ここで、たとえば特許の場合と比較して説明しますと、特許の場合には特許登録を受けた者が特許権を取得できることになっていて、その要件の一つとして先願や先発明という要素があり、要するに<最初に発明をした人に特許権をあげます>という原理が根底にあります。 
発明というのは複数の発明者が同じ発明を実現できる可能性があって、誰に特許を上げればよいのか悩むことがあるので、最初に発明した人を選んだり(先発明主義)、最初に出願した人を選んだり(先願主義)します。ところが著作権の世界では、ある著作物と同じ著作物を別の人が創作するという可能性が理論上はありません。なぜなら著作物というものは<創作的な表現>であって、他人の表現と偶然に似てしまうようなありふれた表現は著作物とはみなされませんから、「創作したタイミングの順位」というものを考える必要がないのです。 
ですので、著作権法の世界では「誰が創作したか」という事実だけで誰が著作者なのかが決定されるわけで、その証拠として最も有力なものが「世間による認知」なのです。 
著作物は通常世間に公表されるものですから、大勢の眼に触れて「ああ、あの人が作者なんだなあ」と大勢の人に認知されれば、それで著作者の地位は安泰になるということです。 
もし著作者の名称が表記されなかったとしても、著作物には作者特有の個性が内蔵されているのですから、他人が著作者として名乗り出てきても作風や画風といったものがおのずと違いをあらわしてしまうでしょうから世間の眼が本物とニセ者を見分けてくれるでしょう。 
こういうことなので、ニセ者と真実の作者とが著作者の地位を互いに争うということは現実にはなく、むしろ「真似たかどうか」という点でケンカになることがよくあります。 
ですので、著作者の地位を得るためには特許の場合のように<登録>という手続を必要としません。その代わり、著作者表示には著作者の地位に影響する重要な意味があるということになります。


◎著作者表示で著作権の寿命が変わる

著作者の表記によって著作者が推定されることはわかりました。では、その著作者の種類によって著作権保護期間が変ってしまうとしたら、これは無視できる問題でしょうか。 
今つくられているデザインやキャラクターの商品寿命はわずか数年で切れてしまうものがほとんどであろうと思いますが、中には末永く著作権を保持したいと願うケースもあります。また、数年で使わなくなってしまうけれど、かといって50年後に他人に勝手に利用されたくないという場合もあるでしょう。 
著作権法の保護期間のことはすでに別の機会で触れてきましたのでなるべく省略しますが、著作者が個人であれば保護期間は死後50年まで、著作者が法人であったり無名または変名の場合は公表後50年まで、という違い が生じます。                            
たとえば私が今年制作された、あるキャラクターの著作者として著作物を公表する際に「ヒノコウジロウ作」とした場合と、「制作 ヒノッチ」とした場合では、その著作物の著作権保護期間は異なるという事です。 
もし私が50年後に死亡したとするなら、著作者表記が実名の場合は著作権の寿命は100年間となりますが、「ヒノッチ」という表記は著作権法では「変名」にあたりますから、50年間しか保護されないことになります。 「ヒノッチ」という作者名からは、私が本当の作者であることを特定できないので死後起算ができませんから、これもやむをえないのです。 
しかしながら著作権法の原則は、やはり「死後起算」なのですから、たとえ著作者表示が変名や無名であったとしても、本当の作者が何らかの事情で世間にとって認知されているのではあれば、やはり「死後起算」が適用される余地があってもよいでしょう。  
ですので、この文章を読んで、「しまった。自分の名前で表示しておけばよかった。」と思った方も、あせらなくて大丈夫です。なぜなら、今からでも表記を変えておけばよいからです。あなたが生きている間に、著作物表示を自分の名前に変えて世間に認知してもらえばそれでよいのです。 
とは言っても、よほど有名なキャラクターやデザインでもないと、自分が著作者であることが世間から忘れられてしまったり、自分が著作者であることを主張する材料を失ってしまうかもしれない、という不安があるでしょう。自分が生きているうちはまだ良いのですが、死後何十年もたったときに権利収入を得るべき承継者が著作権の存在を否定されてしまったら困ったことになるかもしれません。 
チャプリンの映画の保護期間の訴訟のように、著作権の存否のことで未来の承継者が裁判に巻き込まれる可能性がないとは言えません。そこで、著作権法では「実名の登録」という制度を用意しています。 
たとえ無名・変名で公表されている著作物であっても、作者が生きている間に実名の登録を文化庁で行っておけば死後起算の適用となります。公的機関の証明で著作者が推定されますから、著作権法の原則に従って死後起算の適用を受けられるのは当然のことと言えます。
ただし、一応手間とコストがかかるわけですから、将来を予想して必要があるときだけ登録すればよいでしょう。もし外部のクリエイターにキャラクターやデザインの制作を注文し、その後で著作権を譲り受けるような場合であれば、公表の際にクリエイターの実名を表記しておくか、またはクリエイターに実名の登録をしてもらっておくことをご検討ください。(もちろん、50年以上著作権を保持したい場合に限ります)

◎著作者表示と職務著作の関係

次にとりあげておきたいのは「職務著作」との関連です。職務著作とは、法人が従業者に著作物を創作させた場合など一定の要件がそろえば、法人が著作者になるという制度です。 その一定の要件の中に「その法人等が自己の著作の名義の下に公表する・・・」というものがあります。つまり世間の目に触れる際には法人の名称が<著作者として>表示されていなければ法人が著作者になることはできない、ということです。参考までに以下に条文を抜粋します。

(職務上作成する著作物の著作者) 第十五条  
法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。
2  法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。

多くの企業は著作者の権利(著作権だけでなく人格権も含め)の全てを根こそぎ保有したいと考えますので、企業にとってこの規定は非常に重要です。このためキャラクター企業などの多くは自主制作のキャラクターを公表する際に、「(C)」マークとともに会社名を付記することが多いようです。 
これで会社が著作者であることが明示してあるつもりだとは思うのですが、そうであるならば、その著作物の寿命が「50年」になることを覚悟したことにもなります。 
ただし私がここで自信がないのは、そもそも現在一般的に使用されている(C)などの表記は、はたして「著作者表示」なのだろうか、それとも「著作権者表示」なのか、という点です。 

もし「designed by」とか「作者」といった文字が見えれば「著作者表示」であるとわかるのですが、(C)という記号は万国著作権条約に由来する表記であって、それ自体は著作者と著作権者の違いを明示するものではありませんから(条約では「authority of the author or other copyright proprietor」と記載されており、著作者または著作権者と読めます)、Cマークは手がかりにならないと思います。つまり、慣用されている著作物表示からは、それが著作者の表記なのか著作権の表記なのかがわかりにくい場合が多いので、職務著作なのかどうかが少なくとも世間一般の眼からは判別しがたいという現実があるかと思います。 
そうすると我々一般市民としては、ある著作物の保護期間がいつまでなのかがわかりにくくて迷惑だということにもなるでしょう。職務著作の要件の中には企業内部の人間でないと(場合によっては当事者でさえ)わかりにくい要件事実が含まれていますし、職務著作かどうかを世間一般の人々に調査せよ、と言われてもそれは限界というか無理があると思いますから、企業名称が著作者としての意味なのか、著作権者としての意味なのかがはっきりわかるような記載であってほしいと思います。

このように考えてみると、著作者表記というモノは一定の厳密さを要求されるべきものであり、個人の実名が著作者として明示されていない限りは著作権の寿命は公表時起算になる、と解釈してよいとも思います。 
チャプリン映画の訴訟の場合も、チャプリンが映画を製作したことを示唆する文言が表示されていたことから実名表示として扱われていたもので、もしそのような表記が欠けていれば団体名義の著作物として扱われたと思われます。このように著作物表示というもののあり方には重大な意味が含まれていて、今後問題になってゆく可能性を秘めています。

最後にまとめますと、著作物について何か表記する際にはとくに以下の点に注意していただきたいです。

①実名表示の場合と、変名表示や無名の場合とでは著作権保護期間に違いがでます。

②もし実名を表示するならば、「著作者~」「制作者~」「illustrated by~」「designed by~」などのように<著作者が誰であるか>がわかる表記が無難でしょう。(C)には実際的な意味が無いばかりか、かえってわかりにくくなるかもしれません。

③著作者が個人で実名表示の場合は第一発行年を表記する法的な意味はありません。(保護期間計算が死後起算なので)

④職務著作にしたい場合には会社名を<著作者として>表記しましょう。(②と同様)

⑤無名・変名で公表する場合に、もし著作権を長く保有したいなら実名の登録をしておきましょう。

⑥他人の著作物を利用する場合には著作物表示の内容について著作者の同意を得ましょう。  

以上